ivataxiの日記

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天の川

天の川(アマノガワ) 大西正一

大学を卒業後に勤めた会社をわずか二年で辞めて以来、妻の実家の店を手伝うことになったぼくは「腰掛け程度の女性社員の男性版」といった感じであった。同期入社の男女は皆とても仲が良かったから「みんなで飲もう!」と、声をかけたところ、すぐに小さな座敷が一杯になる宴会が始まってしまった。それは、七夕(タナバタ)の少し前であったのだと思う。腹ごしらえがすみ酒も入ると、独身で美男美女の所に大方の独り者は移動してしまった。すでに入社時には婚約していたし、入社後一年で結婚もしていたぼくは、ここでは少数派であった。ぼくと飲んでいるのは現在婚約期間中の社内恋カップルであった。ぼくら夫婦には、子どもがなかったから、カップルの男性が隈談めいた言い方でぼくにカラんでいた。しばらくは無関心に聞いているだけのようだった女性も、話しに割入って来た。「ねえねえ、でもどうして子どもができないの?」と、真顔で彼女は聞いて来る。だから答えない訳にも行かなくなった。「あのね、タナバタの話しって聞いたことあるかな。タナバタにはね、年に一度だけオリヒメとヒコボシが会えるっていう話しなんだけど。」と、ぼくがいった。

「うんうん。その日に雨が降らなければ二人は逢えるんだよね。でも、もし雨が降ったら、アマノガワの水かさが増えてヒコボシは渡れないからオリヒメに逢えなくて、そしてまた来年逢えるのを二人は待つという話しだよね」と、彼女もその話を聞いたことがあるようだった。「でもさ、ぼくたちの場合。タナバタの日に雨が降っちゃったんだよね!」と、さらっとぼくは付け加えた。「わあー。綺麗」と、彼女は幸せそうに頬を紅潮させた。そして、かたわらで話を聞いていた「彼女の未来のダンナさま」に、彼女は揺れるみたいに幸せそうに身体を預けて腕をからませたいた。それで一旦ぼくの話しは打ち切られ、今度は「いったいどうして二人が結ばれたのか」について、こっちが聞かされる番となった。二次会にもほとんどみんなで行った。お酒が入って、少しづつ社会人の顔を脱ぎ始めたみんなの顔には「今夜は、これから」って書かれているみたいだった。