ivataxiの日記

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2005アリとキリギリス

キリギリスが怠け者だっていうことは、みんな知っていました。でも、生まれつきビジュアル系の顔立ちで、身のなしも上品で洗練されていました。それに、お洒落のセンスもダンスもだれにも負けません。特に声がきれいで、作曲と演奏の才能がありました。そんなキリギリスが、いつものように駅前で路上ライブをしていたところ、たまたま通りがかった敏腕プロデューサーにスカウトされたのでした。「彼の才能は天から与えられた宝石。まるで無限に吹き出す泉のようだ」と、その敏腕プロデューサーはマスコミに賞賛の言葉をおしみませんでした。火が着けば、状況はあっというまに変化してゆきました。歌を作り、テレビでオンエア。映画やドラマもタイトル曲や主題歌に使われ、CD・ビデオ・DVD・すべてがヒットの連発でした。コンビニの雑誌の表紙などにもキリギリスの顔が印刷されていましたし、テレビをつければ必ずキリギリスは毎日どこかの番組で見ることができました。昨日の怠け者が、今では時代の寵児人気者となっていました。ブランドを作っても、本を出しても、必ず当たりましたから、スポンサーには困りませんでした。モデルや女優をしている、セクシーなメスのキリギリスたちにも大モテでしたし、大好きなお酒も飲み放題です。そんな天国みたいな日々も、長くは続きませんでした。麻薬を所持していたこととか、いかがわしい宗教団体や政治団体との関係が発覚。暴力団との交際など、今までキリギリスの味方だったはずのマスコミが、今度は逆にキリギリスの適になってしまいました。「これまでの人気は何だったの?」という位に人気はがた落ちです。もともと貯金などしないキリギリスですから、やがて富はすべて失い、あっという間に自己破産です。仕事も住む家も、今夜食べる食べ物さえありません。あてもなくさ迷う寒々とした下町で、小さいですが暖かい光がもれる窓を見つけました。それはアリの家でした。少し前までテレビの人気者だったキリギリスはアリの子供たちのお気に入りです。「いいでしょ、しばらくうちでゆっくりして行けば?」とアリの子供達は心からキリギリスにいいました。それでどうせ行くあてのないキリギリスは、しばらくアリの家に居候することになりました。アリたちは、毎日色んな工場で、マックロなって働いていました。まじめにお金も貯めました。でもそんなある日、アリたちが勤めている会社が、たくさん倒産してしまいました。ちまたには、リストラアリが続出しましたが、どこも不景気で雇ってはくれませんでした。アリたちはもともと、物を運ぶのが得意でしたから「運送や引越しの会社を作ろう」ということになりました。幸い、流通にはまだまだアリたちの入り込むすきまが残っていました。しかも、生まれつき向いたことをやっているので成果が出始め、気が付けばちゃんとボーナスももらえるくらいに会社は儲かり始めました。居候をしていたキリギリスは、持ち前のセンスと人脈とマスコミのコネを使って、宣伝を担当することになりました。「ハイテクとか、インターネット」などという言葉は、キリギリスのために前もって用意されたみたなものでした。まじめアリたちを、時代の申し子みたいなキリギリスが手伝ったものですから、「アリとキリギリス・カンパニー」は、ずば抜けた勢いで成長を続けて行きました。「儲かったお金で投資したら、またさらに儲かった」ということが続いてしまいました。キリギリスには苦い思い出がありましたから、以前とは違いつつましく暮らしました。もともと堅実なアリたちはちっとも生活を変えませんでした。アリとキリギリスはいつまでも豊かで幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし