ivataxiの日記

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カメムシ君

 冬は寒いので、外をほうきで掃こうなんて気にもならない。というか、ただの掃除嫌いで、だらしないだけなのだが、春になり暖かくなると、いつもはしない外の掃除でもやってみようかと思うこともある。柄の短いほうきで、腰をかがめて外をはく姿は、ふけて見えるのであまり人には見せたくないが、掃除の時は仕方がない。地面に顔を近づけているので、子どもの時のように地面に落ちている、ゴミ以外の物にも関心が及ぶのか意外な発見をするものである。タバコの吸い殻や紙くずに紛れて、ツクダニになりそうなくらい沢山の、明るい黄緑色をした三角の虫たちを発見したことがあった。それは近くで見ると、ボデイービルダーが精一杯体を大きく見せている姿とも似ていて、小さいけれどもうらやましいくらいに、とっても逆三角形な虫なのであった。カメムシと呼ばれているその虫は、木の汁を吸うためなのか太いストローのような口をしている。手足は体に比べて、異様に貧弱で細い。また、重そうな体にしては小さな羽を持っていて、クマンバチやアブラぜミのように飛べるというだけでも不思議なくらいである。もう少しスリムで小さくて黒っぽいヘコキムシ(大阪ではそう呼んでいたが、ヘリカムシともいうらしい)という、くさい虫とも親戚なのではないかと、ぼくは勝手に思っている。花を習っている頃のことだが、みかんの皮の表面が、ニキビのようにブツブツと小さく固く膨らんでいることに気が付いた。「どうしてこんな風になるんでしょうか?」と先生に聞いたところ、テレビでそういう番組があって、この件にはカメムシ君が関係しているということであった浜名湖周辺の山林には、多くの樹木が植えられているのだが、その中でも伸びるのが早く、スラッとしていて建材にも適しているという理由から沢山の杉が植林されたという過去があり、ある時期までは問題はないように見えた。だが最近になって、異常に増えた花粉症と杉の花粉には関係がありそうだ、ということになっているようなのである。杉が順調に増え続けてているうちは問題ないらしいのだが、一時期に大量に伐採した場合など、杉は種の保存のためなのか、大量の花粉をばらまくようになった、という話しなのである。人間が自分の都合でやったことなのだが、今ごろになって、それ裏目に出たというだけの話しなのである。杉の花粉が大量に発生するとなぜか、カメムシ君も大量発生するということで、彼らは杉に限らず、小さいみかんの皮にまで、太いストローを突き立てるというのだ。やがてそのみかんが成長すると、カメムシ君のキスの跡も大きく膨らんでニキビのようになる、ということであった。突然大量発生して、行き場を失ったカメムシ君たちは、鷲津まで飛んで来て、明りに誘われて、うちの窓ガラスに一旦へばりつき、ストローで一晩中ガラスにキスをするのだが、樹液など出ない訳で、いつしか力尽き、朝にはゴミに紛れて、黄緑色のツクダニのようになってころがっている、という訳なのである。その姿、生き様は、何だか夢を食べて生きる人々にも似ている。だから、このカメムシ君たちの死をむだにはしてはいけない、とも思うのだが、変なツクダニにする訳にも行かず、結局は、ごめんなさいとゴミ箱に、他のゴミと一緒に捨てられる運命なのであった。カメムシ君たちをこうして葬る頃、ぼく花粉症も始まる訳なのでありました。