ivataxiの日記

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クジラ

ゆっくりと飛ぶ鳥の背中に捕まって、空から見下ろすとわかるのだろうが、陸からではおそらくわからないだろう。陸から見ると単に、川に生い茂った葦がところどころ群生しているだけのようにしか見えない。それは海くらいもある広い川のようにしか思えないだろう。もしも、空から見下ろすことができたなら、そこに「くじら」の姿を見ることができるはずだ。だが近寄っても、実際そこには何もないのである。ある種特殊能力のある人たちには、その声も聞こえるし、姿も見えるようなのだが。「姿が見える」といっても、正確には「生前の残像」というべきなのかも知れない。それは、この川にこんなにも葦が群生しなかった以前のことである。ここまで、海から小さなくじらたちが上って来ていたようなのだった。蛇行した川は、この辺りが特に流れの緩やかで広い場所であったようだ。大昔、くじらはカバのような哺乳類の先祖から進化したという・・。人間などとも、まったくの無関係ではないし、海に生きているからといって、ましてや「魚」の一種ではない。その頃のくじらたちは、広いこの川の端から端を、ターンしてスピードを競ったり、水遊びもしていたようである。そんなに遠く無い過去。人間たちの登場で、多くのくじらの仲間は殺された。次第に川に残る者も減り、身を隠すようにしていたわずかな仲間たちも、気温や水温の上昇と共に、水質が変わり、良くないバクテリアなどの増殖に関係して、おおむねいなくなってしまったようなのだった。種の危機に直面して、ある者は海に戻り、またある者はここで屍となった。大量に屍となったくじらたちの念がここに今も残り、上空から見た時に、くじらの形に見えたとようなのである。