ivataxiの日記

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沼のワニさん

あっ たかーい沼がありました。

そこは年中ワニが裸で暮らせる位にあったかーい沼でした。

そこにはオスのワニさんが住んでいました。

名前を「ワニ」といいまし た。

昔はどうだったかは知らないのだけれど、

今のワニさんは、とてもおだやかにくらしていました。

ワニさんは、沼に遊びに来る友だちを食べたりはしません でした。

なぜって、十分に太ったおいしい「オサカナさん」が沼には住んでいましたから。

オサカナさんには悪いけど、ワニさんはオサカナを食べて暮らしてい ました。

ワニさんにとって、一日で一番大切なこと・・・

それは、「昼寝」をすることでした。

でも、友だちの「ヤギちゃん」が遊びに来た時だけは別だった。

もっともワニさんの場合、夜だってちゃんと眠っていたし、

その上昼寝もしていたので、そんなにも眠くはないと思うのだけれど。

一方ヤギちゃんの方 は、そんなワニさんの都合にはおかまいなしに

突然遊びに来るのでした。

だから、ちょっとワニさんもかわいそうなのでした。

いい忘れていたかも知れないけれど、ヤギちゃんという名前だけど、

彼女は実は「ヒツジさん」なのでした。

ヒツジというのはクルクルとしたたくさんの毛で身体中をおおわれ、

角が丸まった動 物なのだけど、彼女はまだ角も小さくてヤギだといわれれば、

そんな風にも見えるのでした。

ヤギちゃんは、お父さんとお母さんのことは知りません。

おじさん とおばさんに小さい頃から「ヤギちゃん」と呼ばれて

育てられたのですから。

きっとどこかの牧場にはヤギちゃんのお父さんお母さん、

そして兄弟たちも幸せに 暮らしているはずなので安心なのでした。

ヤギちゃんがこの牧場に来た時、一つだけ持って来た物があります。

いえ、連れて来た「ともだち」という方が正しい かな。

それは「アベちゃん」です。

アベちゃんはテディーベアなのです。

ヤギちゃんも体が大きくはないのだけれど、

アベちゃんはヤギちゃんでも可愛いと思う 位に小さいのでした。

生まれた時からアベちゃんとはずーっと一緒でしたから、

これまでヤギちゃんはちっとも寂いことなんかありませんでした。

といっても、 他の羊たちと一緒に暮らしたことはありませんでしたから

「みんなで一緒にいる」ということがどういうことなのか、

ヤギちゃんにはわからなかったのも確かな ことでした。

「アベちゃん。今日もワニさんに会いに行こう」と、

ヤギちゃんはそんな風にアベちゃんに話しかけ、

そして無理矢理手をひっぱって、ワ ニさんのいる沼にひきずって行くのでした。

こんな具合にひっぱられてばかりいるので、

アベちゃんの毛並みはもうボロボロになっていました。

あまりにもアベ ちゃんの毛並みがボロボロだったので、

それを見たおじさんとおばさんは

「新しいテディーベアを買ってあげるよ」と、何度もいうのでした。

でも、アベちゃん はアベちゃんなので、

「別の」とか「新しい」とかいうのは、

ヤギちゃんには何のことなのかわかりませんでした。

それにアベちゃんはテディーベアだけど、

ヤギちゃんにとっては友だちなのでテディーベアを新しく買ってもらっても、

友だちのアベちゃんとは違います。

困ったことがひとつあります。

それは、アベちゃんは、話しかけても何も答えてくれないということです。

きっと、話は聞いてくれているし、わかってくれて、

思いやりのある言葉もあるとは思うのですが、

どういっていいかわからないようなのでした。

それで自分で勝手に答えを見つけ、

それをアベちゃんに相談することにしているヤギちゃんなのでした。

良いことと いえば、

アベちゃんは決してヤギちゃんに反発することがないということでした。

だからたいてい、ヤギちゃんの思った通りに行動することになりました。

アベちゃんはいつだって快く一緒に来てくれました。

二人はとても良い関係なのでした。

誰よりも良く話を聞いてくれるし、

どんな時もいつも一緒にいてくれるアベ ちゃんのことを、

時には「兄弟みたい」だと思うこともあるアベちゃんでした。

少し小高い所にある、ヤギちゃんたちの牧場から

トットット」っと歩 いておりて行くと、

すぐにワニさんのいる沼があります。

一日に何回も行ったり来たりしても、疲れない距離です。

何回もそこを行ったり来たりすることもあるヤギちゃんたちでしたが、

ワニさんの方は沼から歩いてヤギちゃんたちの牧場に来たことはありません。

ヤギちゃん「ワニさん。元気?」

ワニさん「やあ。ヤギちゃん。それにアベちゃんも。こんにちは」

本当は、ワニさんは昼寝の最中でした。

でも、ヤギちゃんが訪ねて来た時には特別なのでした。

ワニさんは他の動物よりもずっと大きな口を持っています。

その口の中に残ったオサカナさんの残りを、

キレイにしてくれるたくさんの鳥さんたちが、

何かおしゃべりをしながらおそうじをしてくれている所でした。

鳥さんたちはアベちゃんよりもずっと小さくて動きが早いのでした。

でも、顔の見分けがつかないので、

いつも見ていても名前は覚えられませんでした。

やっと、おそうじ がすみました。

ゆっくりとワニさんは口を閉じました。

しばらく口おえ開けたままにしていたので、

アゴの付け根が疲れてだるい感じでした。

何回かパックン、 パックンと

上のアゴと下のアゴをかみあわせて調子をみていました。

ワニさん「うん。良い感じだ」

ヤギちゃん「ワニさん。今日は何して遊ぼうか?」

ワニさん「そうだなぁ。・・じゃあ、今日はアメリカにいる、

いとこのミシシッピーワニの話でもするかい?」

ヤギちゃん「うんうん。ミシシッピーワニさんの話、

アベちゃんもきっと好きだよ」

ヤギちゃんとアベちゃんは、

いつものお気に入りのソファーに横になって

ワニさんの冒険の話しを聞くのが楽しみでした。

その小さな沼の横には良く乾いて程よく柔らかな牧草が積んでありました。

そこに、ちょうどヤギちゃんとアベちゃんがスッポリと入ってしまう位の

くぼみがあるのでした。

それを「ソファー」と呼ん でいるのでした。

ワニさん「えーっとぉ。どこまで話したっけ・・。あっ、そうそう。」

ヤギちゃん「ほら、アメリカにはミシシッピー川というながあぁい川があって、

そこにいるワニさんのいとこのワニさんがいるって所からでしょっ。

ねぇ、アベちゃん?」

ワニさん「そうそう、そうだった。それでね。この前のつづきだけどね・・」

ワニさんはいつも、ヤギちゃんがそんなに疲れない位の話しをしました。

ヤギちゃんはワニさんの話しの途中、目を輝かせたり、

少し眠そうになったりしながら、ワニさんの話しに耳を傾けていました。

その間、ヤギちゃんはアベちゃんを胸にきつく抱いたり、

撫でたりしていました。

ワニさん「ヤギちゃん。そろそろおひさまが傾いて来たよ。

暗くなるといけないから、今日のお話しはここまでにしようね」

ヤギちゃん「うん。そうだね。じゃぁ、アベちゃん行こうか」

と、ソファーに横たわっているアベちゃんの手を引いて、

トットっと、牧場の方に歩きだしてゆきました。

ちょっと振り返って

「ワニさん、今日はミシシッピーワニさんのお話し、ありがとう。

楽しかった。じゃあ、また明日」

と手を振りながらヤギちゃんはア ベちゃんの手を引いて

バイバイをさせて帰って行きました。

ワニさんは、優しい目だけを沼の水面に出して、

赤くなり始めた空に牧場への坂を登って行く小さな 二つの影を

見送っていました。

おしまい