ivataxiの日記

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ミロ

ささやかな食にまつわる都市伝説である。一人暮らしは美 しい思い出に彩られた記憶に塗り替えられているだけで、タイムマシンでもう一度同じ体験ができるとしてもお断りするかもしれない。ともかく19歳から21 歳までの参宮橋の怪しい四畳半(隣の開かずの部屋から夜な夜なすすり泣く女の声がしたのは実話)生活はまさにそんな時期である。中学の友人の部屋を家具ご とオークションみたいに購入して住み始めたので、いきなり見慣れない家具・家電との生活となる。家電といってもコタツ・白黒テレビそれに電気湯沸しポット 位だった。冷蔵庫や電子レンジは未来人の新兵器なので、良く締め切った日のあたる角部屋に置いたままの食材は虚しく腐らせてしまうのだ。特に、卵の腐った 臭いは筆舌に尽くし難い。インスタントラーメンや缶詰・パンの買い置きは許されるがそれ以外は常にすぐ食べる。小さな電気湯沸しポットは現在の上の部分を 押すと「グエッ グエッ」と鼻の形の注ぎ口からお湯が出るタイプの出現以前の物で工芸品に近い形だ。温度調整もないからコンセントを入れて沸騰させるとい う簡単な作りで、後に空焚きしたかどうかで壊してしまうのだが・・。ともかくお湯があればインスタントラーメン・インスタントコーヒーには便利なのだ。テ レビCMで「強い子のミロ」というのを見て衝動買いをした。お徳用である。コーヒーよりも少し甘くココアよりも少し苦い健康が売りのインスタント飲料で本 来は冷えた牛乳で飲むらしいのだが冷蔵庫なしの人は例外である。お湯でも飲めるようなのでそうすることにした。当時、バイト・予備校・夜間デッサンと徹夜 の色面構成(パネル張りしてポスターカラーで塗る)の宿題(本来、デザインの予備校に行くべきだがデッサンの先生が課題を出してくれそれを翌日までに仕上 げる)などで常に寝不足だった。新品のミロの真空パックのビンのアルミ箔のフタをはがしコップにミロをスプーンで出した。そしてお湯を注いだ。「・・何か おかしいな?」と思った。どうやらコップではなく、買ったばかりのビンの中にお湯を注いでいたようなのだ。気付いたのだがお湯をさす手は諦めてそのまま一 杯までそそぐ。保存のきかない環境なのでそのミロを一気に飲んだ。「せめて徳用を買わなければ良かった」と・・そこかよ?的自虐観の一人暮らしのヒトコマ なのである